浅田家!

浅田家!のこと。

 

感想、というにはあまりにも書き散らかしてしまいそうで、今になってしまいました。とりあえず、いくつかの場面に分けて書いていきたいなあ。
ネタバレふんだんなうえ、事前番組やインタビュー、さらには小説版の浅田家!なども鑑賞済、読了済なので、少し触れることもあります。悪しからず。

兄弟のこと。
兄である幸宏と弟の政志。この二人が兄弟に見えるというのは本当にすごいことで。
弟の「人懐っこい笑顔」に弱いお兄ちゃんは、親のためと言いつつ政志に振り回されている。浅田家の長男が幸宏(この人)でなかったら、破綻していたと言わしめた「ザ・お兄ちゃん」。
けれどよくよく見ると、お兄ちゃんがお兄ちゃんらしいと感じる場面は多々ある。
浅田家のファイルブックを作ってくれるシーンも印象的だが、個人的に一番「お兄ちゃん」を感じるのはお父さんが倒れたシーン。
暗い部屋の中、呆然としたままの政志との対比ですぐに電気をつける幸宏。そしてお母さんの「幸宏、救急車」の声。いざと言う時頼りになるお兄ちゃんなところ、いいですね。
あと政志に何か言うのはいつも幸宏。それが一番成功率高いからこそなんじゃないかな。お父さんの誕生日に帰ってくること、快復祈願しに行くこと、集まってる我が家の中へ「戻るぞ」と言うこと。政志は文句言わずすんなりついて行くの、お兄ちゃんへの信頼が見えてきてかわいい。
それから大人になってから訪れた神社で肩を組むシーン。政志の肩に回された手の親指が撫でるように動くの、「お兄ちゃーん!」となります。弟をちゃんと可愛がってきたお兄ちゃんですアレは…。
ナレーションの当て方も秀逸。「一人の実力で写真家になったと思っているなら〜」と「家族全員を巻き込んで」を、最後の政志演じる二宮さんのナレーションで回収する。「家族と、たくさんの人の思いを借りて」。政志がちゃんとわかってるからこの浅田家!が成り立つ。

 


若菜ちゃんのこと。
いやーかわいい。好きなのは波止場で200万か結婚か詰め寄るシーン。
ここ、序盤の東京に出ていく若菜ちゃんとの違いが大好きなんです。
東京に出ていく若菜ちゃんはキャリーで、踵の高くない靴。東京から政志に発破かけるため戻ってきた若菜ちゃんはハイヒールで小さなリュック一個。この荷物の少なさが、政志に発破かけるため「だけに」を強調しているようで。まだ煮え切らない態度をとる政志を見つめるワンシーンもいいですね。睨んでいるわけでもなく、諦めているわけでもなく。

お母さんからの「追い出してええからね」の声に、「いいえ」も「はい」も返せないのもよきです。
二人でギャラリーに並んでるのも好き。政志のスーツ選んでくれてありがとう若菜ちゃん…会社の面接行くとき着てたスーツの3億倍似合ってる。素晴らしい。スタオベ。ちょっと「かっこいい」って思ってるけど絶対言わない若菜ちゃん最高。
「追い出すからな」と背中叩くのも、「人差し指切るからな」と約束するのも、若菜ちゃんから政志への評価なのがいいです。政志を信じてくれる、政志の写真の力を信じてくれる感じ。


姫野さんのこと。
いいものはいい。この一言にどれだけ救われたか。
自分が面白いと思ったものでたくさん笑ってくれたその人が一人いるのといないのとじゃ全然違うんですよね。
受賞式で嬉しそうな姫野さん、見ていてこっちが幸せになる。


政志のこと。
政志は、「ありがとう」と「ごめん」が言える子なんだなあ、と。それから優しい人。被災地や依頼してくれた家族写真を撮りにいくシーンでは一本の煙草も吸っておらず、家族写真に入るわけでもないのにしっかり自分も家族に合わせた服を身に纏う。
その距離感は絶妙で、家族というひとつのかたちを愛してる姿がそのまま現れていると思う。

そしてここからは、その政志を演じているのが二宮さんということで二宮さんのお芝居にフォーカスを当てて語る。とはいえ私は別にお芝居に詳しいわけじゃない。単にすげえ、となったシーンを挙げていく。


政志演じる二宮さんは、使えるものは全て使ってお芝居をしている。
声、表情、手、背中、瞳、歩き方、仕草。
浅田家の写真ブック、「家」を拾うシーンはその手と「ありがとうございました」の一言だけで期待してたことへの恥ずかしさ、悔しさが滲み出てる。「顔を上げられない」のが伝わってきて本当に切なくなる。

好きなのは「驚き」の表現。
たくみくんの病室に入るとき、当人の置かれている状況を知った驚き。
震災があったことを受け、電話を切りながらニュースを見たときの驚き。
被災地を訪れ、瓦礫の山に呆然とする背中。(車中のシーン、最初に野津町に行く時は窓から色んな建物が見えるのに二度目の訪問では全く建物が見えない。振動で「道の荒れ具合」まで演出するなど細かいところまで作り込まれていて私は嬉しい)
兄弟を撮っていたお父さんを思い出し、そこから得た閃きでの驚き。
さくらちゃん一家の無事を掲示板で知ったときの驚き。

全部違うんですよ…ほんと…ほんとに…。

涙の演技も高く評価されてるみたいですね。
虹の家族のときの、「永遠を願う一瞬」を表した涙、綺麗。


さらには声。
鳥肌が立つのは内海家を撮るときの「撮りますよー」。え、誰?って思った。ここまで、政志の声はずっと政志の声だった。優しい声、不貞腐れてる声、慌てている声。でも「撮りますよー」と「せーのっ」は政志の声じゃなかった。莉子ちゃんのお父さんの声は莉子ちゃんの頭の中に響いたけど、政志の声は響かなかった。この使い分けって一体なに…恐ろしい…。

そして絶対に言いたい、目のハイライトのこと。
莉子ちゃんから内海家を撮って欲しい、と言われたときもそうだけど、二宮さんはハイライトをいつ入れていつ入れないか決められるのか?
上記のシーンは顔を逸らしたり目を伏せたりで「できるとして」、もう1箇所。
掲示板に高原さんたちの情報がなく、歩いている際に写真洗浄のボランティアを見つけるシーン。
ほとんど顔が動いてないんです。動いてないのに、ボランティアやっているその場所を見つけ興味を持った瞬間、目にハイライトが入るんです。え…一筋の光…?
写真を洗う手つきもやばやばのやばでしたね。
水につけ、まずは写真の下側、写っている人の顔ではない部分を優しく擦る。落ちないことを確認してから、写真の大事なところ、写っている顔を先に洗う。そして写真の中心から順に持ち上げ、水を切る。これ教わっているメイキングがあるなら是非見たいです…。

菅田くん演じる小野くんが「消えちゃわないですか」と慌てるシーンもいいですね。気弱ながらも果敢に言葉を重ねることで写真を大事にしていることが伝わってきます。


被災地のこと。
4月に、桜の花びらが舞っていて。だけど誰も気に止めてないんです。そんな余裕がない。
役場もピリピリ、というか忙しそうで。それが9月になると賑やかさが全然別物なんです。まず飛び交ってる声が明るい。「暑いからねー」なんて言い合って。強いなあ、と感じ入るシーンです。


とまあ、予想通り書き散らかりました…でも書けてよかったなあ…。
浅田家!、めちゃいい映画です。(総評)